父親は職人で、車で九州中の街に出かけては店舗のエクステリアをしていた。
大きな電飾や看板を作ることもあったが、面白いのがセロハン加工というもの。
パチンコ屋は風営法の関係で中を見せてはいけないので、ガラスにセロハンを貼る。
目隠しという。
普通は包装紙のような既製品をペタッと貼って終わりだが、父はここに店の名前などをおりこんだオリジナルのデザインをしていた。
どうするかというと、赤、青、黄などの原色の大判のセロハンを貼り、カッターナイフで表面を切って絵を描く。
(設計図をガラスの向こうに張ってトレースする)
で、ピッピッとセロハンを剥がして色を出す。
セロハンが多層に重なっているところは混合色で暗くなり、薄くなっているところは単色で明るくなるわけだ。
ステンドガラスのような状態になる。
これ、うちの父親がやっているのしか見たことないんだけど、もしかしたら日本でただ一人の技術だったのではないだろうか。
いまセロハン加工、ガラス、店舗装飾で検索してもヒットしない。
筒井康隆のサラリーマン時代の日記に「セロ加工」と書いていたのが同じものだろうか。
でも、少なくとも店先で、その場で、オリジナルの図柄を描いていた人は日本でもたぶん父だけか、多くても数人しかいなかったのではないか。
(有名な技術で、他にもやっている人をご存知の方はご一報くださると幸いです)
セロハンは日光で退色し、パチンコ屋は年に数回新装開店するので作品は残っていない。
子供の頃、父が商店街で仕事をしていたのを見物していると、あちこちの店から人が出てきて、コックさんや、ブティックのきれいなお姉さんとかがものめずらしそうに見ては「すごいね!」「あんな風にやるんだね!」と口々に言っていたのを思い出す。
乳白色のセロハンを裏に貼って、絵が一気に完成するときは、「おおっ」と歓声が上がった。
30年も前のことだが、今も思い出す。

(写真はノートルダム寺院のステンドグラス)
スポンサーサイト
テーマ : 雑記 - ジャンル : その他
セロ加工
セロ加工=セロハン加工でやはり合っていたのですね。
ブログ記事は7年前のものですが、つい昨日高校時代の友達と東京で会い、父のセロハン加工の話になった、まさにその翌日に、このようなコメントをいただいて、奇縁を感じます。
そうなんです、そのあとカッティングシートの時代に変わりましたね。
あれは不透明で、セロハンの味わいがないと思いましたが、コストと耐久性に優れているということですね。
筒井康隆さんの乃村工藝社の後輩の方からコメントをいただけるとは驚きです。
やはり広告は残っていませんね。
セロハンが日焼けしますから。
それですぐ仕事が来るのが父にとってはいいところだったんですが、作品として残っていないのが、なんとも儚い気もします。
父の画才、技術は、子供の欲目かもしれませんが、しょうしょうびっくりものでした。
本当にありがとうございます。
コメントの投稿